SSBJ基準への対応が進む中で、Scope3は単なるGHG排出量の開示項目ではなく、企業価値や事業戦略と直結するテーマとして扱われるようになっています。特に重要なのは、投資家が単に「排出量の多寡」を見ているのではなく、脱炭素社会への適応力や将来の競争力を評価している点です。製品使用時の排出量(カテゴリ11)は将来の市場競争力と、原材料・調達に関わるカテゴリ1はその実現可能性と深く関係しています。
そのためSSBJでは、単にScope3を算定・開示するだけではなく、「なぜそのカテゴリが重要なのか」「どのような戦略・リスク認識のもとで管理しているのか」を説明できる状態が求められます。
本記事では、SSBJにおいてなぜScope3が経営課題となるのかを整理したうえで、リスク・機会・事業戦略・説明可能性とのつながりを解説し、Scope3算定方法そのものではなく、「なぜScope3が経営課題となるのか」を中心に整理します。
SSBJ基準では、Scope3は単なるGHG排出量データとしてではなく、企業価値に影響を与えるリスク・機会を説明するための重要な指標として位置づけられています。
従来、GHG排出量開示では、自社の直接排出(Scope1)や使用電力由来の排出(Scope2)が中心的に扱われるケースも少なくありませんでした。しかし現在は、企業活動に伴う気候関連リスクや成長機会の多くが、自社単体ではなくバリューチェーン全体で発生すると考えられるようになっています。例えば、原材料価格の上昇、サプライヤーへの排出削減要求、低炭素製品への市場シフト、顧客からの環境性能要求、GX投資・調達条件の変化といった変化は、企業の将来キャッシュフローや競争力に直接影響します。
そのため投資家は、単に「排出量が多いか少ないか」だけではなく、
を重視するようになっています。
こうした背景からSSBJでは、Scope3を通じて、企業がバリューチェーン全体のリスク・機会をどのように認識し、どのような戦略・管理体制で対応しているのかを説明することが求められています。そのためSSBJでは、単にScope3合計値を開示するだけではなく、カテゴリ別排出量の開示が求められています。これは、「どの領域にリスク・機会が存在するのか」「どのバリューチェーンが企業価値へ大きく影響するのか」を把握・説明するためです。例えば、カテゴリ11(販売した製品の使用)が大きい企業では、製品の省エネ性能や低炭素化戦略が将来競争力と直結します。一方でカテゴリ1(購入した製品・サービス)が大きい企業では、調達戦略やサプライヤー管理が重要な経営課題となります。つまり、Scope3は単なる環境指標ではなく、「将来の企業価値を説明するための経営指標」として重要性が高まっているのです。
下図で、なぜScope3が「排出量管理」ではなく「経営課題」になるのか、全体構造を整理します。
※SSBJ・ISSB開示の全体像や、企業価値との関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ SSBJ・CSRD・ISSBの違いとは?企業価値評価の共通構造を整理
※SSBJについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ SSBJ(サステナビリティ開示基準)とは?対象企業・義務化スケジュール・企業対応の全体像をわかりやすく解説
※Scope3については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ Scope3とは?算定対象・15カテゴリをわかりやすく解説
SSBJにおいてScope3が重要視される背景には、企業の将来競争力が「製品・サービスの使用段階」と強く結びつくようになっていることがあります。
特にカテゴリ11(販売した製品の使用)は、製品が顧客に使用される際のGHG排出量を対象とするため、製品そのものの環境性能や市場競争力を反映しやすい領域です。
例えば、自動車業界ではEV化や燃費性能、家電業界では省エネ性能などが競争力と直結しています。つまり、脱炭素社会への移行が進むほど、「使用時にどれだけ排出する製品か」が市場評価へ大きく影響するようになります。
そのためカテゴリ11は、単なる排出量項目ではなく、
を示す経営指標として重要性が高まっています。
実際、Scope3の中でもカテゴリ11の割合が大きい企業では、製品戦略そのものが気候関連戦略と直結するケースも少なくありません。このように、Scope3は単なる排出量管理ではなく、事業戦略や市場競争力と密接に結びつくテーマになっているのです。
※Scope3カテゴリ11(販売した製品の使用)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ Scope3カテゴリ11とは|使用段階の排出が企業価値と直結する理由と算定の考え方
カテゴリ11が将来の競争力や市場評価と直結する一方で、その実現には、原材料・部材・調達を含むサプライチェーン全体の変革が欠かせません。
例えば、製品の省エネ性能向上や低炭素化を進めようとしても、
といった状態では、製品全体としての低炭素化を実現することは難しくなります。
そのため近年では、製品競争力の議論とあわせて、「どのようなサプライチェーンを構築できるか」が重要な経営課題となっています。
これは、Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)が、単なる調達排出量ではなく、原材料戦略、サプライヤー戦略、調達リスク管理、データ管理体制、サプライチェーン全体での排出削減能力等を反映する領域だからです。特に今後は、企業単体ではなく、サプライチェーン全体での排出削減が求められる場面が増えると考えられます。
例えば、
など、調達・製品・開示が一体で動くケースも増えています。つまり、カテゴリ11で示される「将来の競争力」は、カテゴリ1を含むサプライチェーン改革によって初めて実現可能になります。
このようにScope3は、単なる排出量管理ではなく、「自社の事業戦略を、どのバリューチェーン構造で実現していくのか」を示す経営テーマになっているのです。
※Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ Scope3カテゴリ1とは|購入した製品・サービスの排出が最大になる理由と算定の難しさ
SSBJでScope3開示が求められる背景には、投資家が排出量そのものではなく、「将来の競争力や移行戦略」を見ている点があります。
実際には、Scope3を通じて、将来の事業リスク、市場競争力、移行戦略の実現可能性、サプライチェーン管理能力、経営としての実行力などを評価しています。例えば、カテゴリ11が大きい企業では、「その製品は脱炭素社会でも選ばれ続けるのか」が重要な論点になります。一方、カテゴリ1が大きい企業では、「原材料・サプライヤーを含めて本当に低炭素化を実現できるのか」が問われます。つまり投資家は、Scope3を単なる環境データではなく、「企業が将来も競争力を維持できるか」を判断するための材料として見ているのです。そのため、単にScope3排出量を開示するだけでは十分ではありません。
例えば、
まで含めて説明できることが重要になります。特にSSBJでは、リスクと機会を企業価値との関係で説明することが求められるため、Scope3も「環境部門だけの指標」としてではなく、経営戦略・移行計画・サプライチェーン改革と一体で語られる場面が増えていくと考えられます。このように、投資家が見ているのは排出量そのものではなく、「その排出構造の背景にある経営戦略と実行力」なのです。
※サステナビリティ情報開示が、なぜ企業価値説明として重要になっているのかについては、こちらの記事も参考になります。
→ 開示を企業価値向上の投資へ ~SSBJ対応がもたらす経営変革の可能性~
投資家は、単に競争戦略を語るだけではなく、「本当にその戦略を実現できるのか」も見ています。
Scope3対応において、「どこまで精緻に算定すべきか」という議論が行われることは少なくありません。しかし、SSBJの文脈でより重要になるのは、単に排出量を精緻化することではなく、「なぜその算定・管理方法を採用しているのか」を説明できる状態を構築することです。なぜなら投資家は、Scope3を通じて、企業の実行力や管理能力を見ているからです。
例えば、
といった判断には、その企業のリスク認識や戦略が表れます。つまり、Scope3の説明可能性とは、単なる算定ロジックの説明ではありません。
重要なのは、
を、事業戦略と一貫した形で説明できることです。例えば、カテゴリ11を重要課題として位置づけながら、カテゴリ1側でサプライヤー連携や調達戦略が存在しない場合、投資家からは「本当に移行戦略を実現できるのか」という疑問を持たれる可能性があります。
一方で、現時点で推計値を含んでいたとしても、制約条件を把握している、改善方針を持っている、継続的にデータ品質向上を進めているといった説明ができれば、「管理されている状態」として評価されるケースもあります。
このように、投資家が見ているのはScope3の数字そのものではなく、「その数字をどのような戦略・体制・考え方で管理しているのか」という経営としての説明力なのです。
※ Scope3算定が難しくなる背景や、説明可能性との関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ Scope3算定はなぜ難しいのか 有価証券報告書・SSBJ開示で説明が難しくなる理由
従来、Scope3は「どれだけ排出しているか」を把握するための環境指標として扱われることが多くありました。しかしSSBJでは、単なる排出量の把握ではなく、「なぜその排出構造になっているのか」「その構造が将来の競争力やリスクとどう関係するのか」を説明することが求められます。つまり現在のScope3対応では、算定実務そのものよりも、「その数字をどう読み解き、経営へ接続するか」がより重要になっているのです。
特に重要なのは、Scope3を通じて、
といった経営戦略との一貫性を説明できることです。
例えば、カテゴリ11を通じて製品競争力を示しながら、カテゴリ1では調達・原材料・サプライヤー改革を進める――このように、事業戦略と供給網変革を一体で説明することが、今後のScope3対応ではより重要になっていきます。そのため、Scope3は環境部門だけで完結するテーマではありません。実際には、経営企画、調達、SCM、開発、IR、サステナビリティ部門など、多くの部門と接続しながら、全社的な経営テーマとして扱われる場面が増えていくと考えられます。
また投資家も、単なる排出量削減目標ではなく、本当に実現可能な戦略か、サプライチェーンまで含めて実行できるか、継続的に改善できる管理体制があるかを見ています。
つまり今後のScope3対応では、「どれだけ精緻に算定したか」だけではなく、「その排出構造を、企業価値・競争力・事業戦略と結びつけて説明できるか」が、より重要になっていくのです。
| 従来のScope3対応 | SSBJ時代のScope3対応 |
|---|---|
| 排出量を算定する | 企業価値との関係を説明する |
| 算定精度を高める | リスク・機会を説明する |
| 原単位・推計管理 | 競争戦略・移行戦略を説明する |
| データ収集が中心 | 経営判断との接続が重要 |
| 環境部門中心 | 経営・IR・調達も関与 |
| 「どれだけ排出したか」 | 「なぜその構造なのか」 |
※サステナビリティ対応を全社経営へどのように統合していくかについては、こちらの記事でも整理しています。
→ 開示を企業価値向上の投資へ ~SSBJ対応がもたらす経営変革の可能性~
サステナ経営を実践する組織デザイン:CFO・CIO・CSOが連携して実現する価値創造モデル
Scope3関連記事は、以下の順で読むと理解が深まります。
Why編 → What編 → 課題編 → 経営・開示編 → 設計編 → 実務編
SSBJでは、単なる排出量合計ではなく、「どの領域にリスク・機会が存在するのか」を説明することが求められています。
そのため、カテゴリ別に開示することで、
を把握・説明できるようになります。
カテゴリ11は、製品使用時のGHG排出量を扱うため、製品競争力や市場変化と直結しやすい領域だからです。
例えば、
などは、将来の市場評価や企業価値へ大きく影響します。
そのためカテゴリ11は、単なる排出量項目ではなく、「脱炭素社会で選ばれる製品か」を示す経営指標として重要性が高まっています。
もちろん精度向上は重要ですが、SSBJの文脈では、「なぜその算定方法を採用しているのか」を説明できることも重要です。
例えば、
といった背景には、企業のリスク認識や戦略が表れます。
そのため、単なる精緻化だけではなく、「説明可能な管理状態」を構築することが重要になります。
Scope3の説明可能性とは、単なる算定ロジックの説明ではありません。重要なのは、
を、事業戦略と一貫した形で説明できることです。
投資家は、排出量そのものではなく、「その数字をどのような戦略・体制で管理しているのか」を見ています。
現在のScope3対応は、環境部門だけで完結するテーマではありません。特にSSBJでは、Scope3を通じて、
などを説明することが求められるため、経営企画、調達、SCM、開発、IR、サステナビリティ部門など、多くの部門との連携が重要になります。