Sustainability Leadership Magazine(SLM) | ESG経営・サステナビリティ戦略の専門メディア

ESGデータ管理成熟度モデル――開示対応から経営に使えるデータ基盤へ

作成者: 柴田学|2026/09/29 7:03:32

※本記事は2026年7月時点の制度・実務動向を前提に整理しています。

SSBJ、CSRD、Scope3、第三者保証への対応が進むなか、企業が収集・管理するサステナビリティ関連データは増え続けています。しかし、開示資料を作成できることと、データを経営に活かせることは同じではありません。

GHGについても、Scope1・2・3の考え方や算定方法を理解し、排出量を算定できれば対応が完了するわけではありません。実務では、各部門や拠点、国内外のグループ会社などから必要なデータを継続的に収集し、同じルールで確認・更新しながら、削減施策や情報開示、経営判断に活用できる状態を整える必要があります。

年に一度、各部門や子会社から数値を集め、開示フォーマットへ転記するだけでは、問題が分かった時点ですでに年度が終わっています。必要なのは、開示に使う数値だけではなく、目標との差異、施策の進捗、投資効果、事業リスクまで把握できるデータ基盤です。

本記事では、ESGデータ管理を「開示対応の作業」から「経営基盤」へ進化させるために、企業の現在地を6段階で捉えるESGデータ管理成熟度モデルを提示します。

制度の全体像はSSBJ(サステナビリティ開示基準)とは?を、
GHGやScope1・2・3の全体像については「GHGとは?温室効果ガス・GHG排出量・Scope1・2・3の関係をわかりやすく解説」を、
Scope1・2の算定方法や必要データ、省エネ法・温対法との関係については、「Scope1・Scope2とは?違い・算定方法・必要データをわかりやすく解説」を、
Scope3の考え方や対象範囲はScope3とは?対象範囲・15カテゴリ一覧・算定方法・課題と企業対応を参照してください。

1. ESGデータ管理は「開示情報を集める作業」ではない

GHGデータ管理では、Scope1・2・3の排出量を算定するだけでなく、その元となる活動量や排出係数、算定結果を継続的に収集・更新し、削減施策や情報開示、経営判断に活用できる状態を整えることが重要です。

一方、企業が管理するESGデータはGHGだけではありません。環境、人材・人権、サプライチェーン、リスク、ガバナンスなど、企業活動の幅広い領域に及びます。

領域 主な基礎データの例
Environment エネルギー、GHG、水、廃棄物、資源循環、生物多様性、製品環境情報
Social 人員・人材育成、労働安全、DE&I、人権、サプライヤーの労働・人権情報
Governance 取締役会、リスク管理、コンプライアンス、内部統制、内部通報

外部に報告する項目の把握には、GRIなどの開示体系が役立ちます。一方、社内管理に必要なデータは、開示項目の一覧だけでは設計できません。企業内部では、同じテーマをKPI、目標、施策、投資、事業戦略、リスクと結びつけ、拠点・事業・製品など意思決定に必要な粒度で管理する必要があります。

図1 ESGデータの構造

図の起点は、各部門・拠点・業務システムが保有するESG基礎データです。これを集計・加工して、社内管理データへ変換します。社内管理データは、目標、KPI、施策、投資、リスクなど戦略や資源配分などの経営判断に使われると同時に、その一部がSSBJ、CSRD、GRI、CDPなどの外部開示に利用されます。

つまり、企業が管理すべきなのは「開示に必要なデータ」だけではありません。経営に必要なデータを管理し、その一部を開示へ利用することが基本です。

なお、第三者保証は図の最終工程にありますが、保証対応を最後に考えればよいという意味ではありません。定義、証跡、承認、変更履歴など、保証に耐え得る統制はデータ管理の設計段階から組み込む必要があります。

2. ESGデータ管理成熟度モデルとは

本モデルは、制度の理解度ではなく、ESGデータを継続的に収集し、品質を保ち、経営へ入力できる状態を測るものです。評価軸は次の6つです。

評価軸 確認するポイント
管理対象データ 開示情報にとどまらず、内部管理情報まで設計されているか
収集範囲 本社、国内外子会社、各拠点、サプライヤーを適切に含むか
収集頻度 開示時期ではなく、経営判断に必要な頻度で集めているか
データ品質・ガバナンス 定義、責任、レビュー、証跡、変更管理が整っているか
管理基盤 Excelからシステムまで、規模に合った基盤を構築しているか
経営活用 KPI、施策、予算、投資、調達、事業戦略へ接続しているか

ESGデータ管理成熟度モデル

レベル 段階 主な状態
Level 0 未整備段階 必要なときに担当者が個別収集し、対象や責任が明確でない
Level 1 開示対応段階 開示時期に合わせて、GHGなど必要な情報を年次中心で収集しており、継続的な管理には至っていない
Level 2 標準化段階 算定基準、収集マニュアル、共通フォーマットを整っている
Level 3 グループ統合段階 国内外子会社とサプライヤーへ展開し、段階的レビューを行われている
Level 4 経営活用段階 重要KPIを月次・四半期で把握し、予算や投資判断へ反映されている
Level 5 戦略統合段階 財務・事業データと統合し、製品・事業・バリューチェーン戦略へ活かされている

成熟度は、システムを導入したかどうかだけでは決まりません。Excel運用でも、定義、責任、証跡、承認が標準化され、経営判断に利用されていれば一定の成熟度に達しています。反対に、システムがあっても、データオーナーや算定ルールが曖昧であれば、データガバナンスは成熟しているとはいえません。

また、成熟度は会社全体、ESGテーマごとによってレベルが異なるのが一般的です。