企業のサステナビリティ開示は、この数年で大きく前進しました。重要課題を特定し、目標を掲げ、データを集め、進捗を報告する。外形だけを見れば、必要な部品はそろいつつあります。
しかし、それらが事業戦略や投資判断につながり、マテリアリティと企業価値の関係まで一貫して説明できるとは限りません。いざ経営会議に持ち込むと、議論が止まることがあります。「その課題は、どの事業の収益やコストに影響するのか」「今、どの投資を変えるべきなのか」「なぜ、そのKPIを経営が追う必要があるのか」。こう問われた途端、項目同士のつながりが見えにくくなるのです。開示の言葉を経営の言葉へ変える――その接続にこそ、多くのサステナビリティ担当者が日々直面する難しさがあります。
2026年7月27日に開催したSSBJ分科会第2期の第2回では、PwC Japan有限責任監査法人 パートナーの田原英俊氏を講師に迎え、事業戦略、マテリアリティ、財務的影響の接続を掘り下げました。講演と参加者同士の議論を通して浮かび上がったのは、SSBJ対応を経営実装へ進める際に立ちはだかる三つの「接続の壁」でした。
SSBJ分科会は、Booost株式会社が主催する、企業の実務担当者を対象とした全6回の実践型プログラムです。2026年6月から、講師による解説に加え、参加企業同士のディスカッションや各社の課題共有を通じて、SSBJ対応における実務上の判断や進め方を検討しています。
第2回では、PwC Japan有限責任監査法人 パートナーの田原英俊氏を講師に迎え、「事業戦略との紐づき・マテリアリティと財務影響」をテーマに議論しました。田原氏は、自動車メーカーで環境戦略や実務に携わった後、サステナビリティ、マテリアリティ、財務的影響、開示などのアドバイザリーに従事しています。
2000年より9年間にわたり、自動車メーカーの環境担当として環境戦略立案と実行、環境マネジメント、環境コミュニケーション、環境情報開示、環境・エネルギー領域の長期動向予測調査、自動車燃料のライフサイクルGHGアカウンティング(Well to Wheel分析)、コーポレート生態系サービス評価に従事。
2011年の入所後は、自動車、重工業、通信、化学、食品・飲料、製薬、航空など幅広い産業におけるサステナビリティに関する戦略立案、マネジメント、情報開示などのコンサルティングを担当。シナリオプランニングによる長期ビジョンの策定、マテリアリティ分析による重要課題の特定とそれに基づく戦略・指標・目標の策定、グローバルベンチマークによるサステナビリティマネジメントの改善、グローバルな投資家・NGO・基準策定機関とのステークホルダーエンゲージメント支援などに数多く携わる。加えて、統合志向・統合経営を見据えたインパクト評価や自然資本会計などの新たな領域におけるサービス開発と先進事例の創出も担当している。また情報開示領域にも精通しており、サステナビリティ格付けや、日本や欧州を中心としたサステナビリティ情報の制度開示対応においても豊富な経験を有する。サステナビリティ日本フォーラム評議員、日本公認会計士協会企業情報開示専門委員会委員を歴任。
第2回の講演を貫いたのは、基準の要求事項をどう埋めるかではなく、サステナビリティを企業経営の意思決定へどう組み込むかという問いでした。以下では、当日の内容を時系列ではなく、三つの接続の壁と、それを乗り越えるための視点に沿って再構成します。